感動の東京ダービー制覇から早2ヶ月。7月13日、川崎日航ホテルにて東京ダービー優勝記念パーテイーが行われ、馬主の木曽敏彦さん、八木仁調教師、酒井忍騎手、大重武志厩務員等キングセイバー関係者が230名の出席者のなか歓喜を新たにした。ごあいさつや鏡開きのあとには大型スクリーンにはキングセイバーの軌跡が映し出され、壇上ではあの激戦を再現するようなインタビューもあって列席者からも感嘆の声がもれた。
第48代東京ダービー馬のオーナーとなった木曽敏彦さんは、何を隠そう日本のトップライダーの一人。明治大学馬術部時代には国体連覇など馬術界で一時代を築いた名手であり、会社経営でブランクがあったものの2001年にはワールドカップ日本リーグで優勝するなど62歳になる現在までも日本屈指のライダーとして活躍する。
「9月にスペインで行われる世界大会に出場します!」と壇上でそう宣言した。
しかし、それは「奇跡」に近いことでもあった。
今年の2月22日のことだ。早くも始まっていた世界大会へ向けた馬術訓練中に馬の下敷きになった。700キロ近い馬術馬を抱えるかたちになって骨盤骨折という大ケガを負った。大量出血によりヘリコプターで緊急輸送され、4000CCもの輸血を要した。一時は絶望視され、意識が遠のく中で臨死体験を幾度も経験したという。それからわずか2ヶ月、木曽さんの姿は東京ダービーの表彰台の上にあった。車椅子での来場、初めての外出許可であった。
「馬たちがボクを助けてくれたんです! すべては馬のおかげです」
大ケガから奇跡の生還を成し、こうしてダービーオーナーという栄誉まで手にした大強運の持ち主はこの激動の半年をそう言葉であらわした。
木曽さんは自然科学の会社を経営するもう一方で、千葉県八街市にNSGライデイングディビジョンという競走馬、馬術馬の育成施設を持っている。キングセイバーは2歳の秋に厩舎入りするまでプール調教を続けたのがここである。「馬術の最先端のノウハウがありますので、それを競走馬の育成にも生かしています」。屋内馬場を中心に施設の周辺を取り囲むようにつくられた走路、直線70メートルのプールでは脚元に負担をかけずに心肺機能を鍛えるという効果がある。さらに「冷凍焼烙治療器」が導入されている。これは馬術の世界で使われているもので日本の競走馬育成施設ではここだけ。日本では例えばソエを焼くというように焼烙治療が一般的だが、馬術の世界では大会国によっては動物愛護の考え方からそれを許さない。そこで使われるのが冷凍焼烙。マイナス80度を患部に当て筋肉や腱の回復に働きかける。ソエばかりか屈腱炎の治療にも効果があるという。
キングセイバーはダービーの激戦の疲れを癒し、ギリギリに仕上げられた馬体を立て直すため、6月4日にはNSGライデイングディビジョンに移された。すでにプール調教や口向きを立て直す訓練も始められ、9月一杯には帰厩予定だ。「川崎所属馬としてはやはり川崎記念が最大目標」という八木仁調教師の言葉が力強い。ひと夏を越した心身の成長ぶりが楽しみである。
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