怒涛の追い込み トキノコジロー 閃く!
― 10月29日 第3回鎌倉記念 ―
(2003年11月号)
結果はコチラ
  「こりゃ、心臓に悪い‥‥」。レースを見ていた関係者の誰しもが口にした。道中は終始馬群の最後方。トキノコジローが4コーナーを回った時から時計が一瞬止まってしまったかのようだった。一頭だけレースが違ったいた――。
 鎌倉記念。2歳重賞として再びこの競走名が復活して3回目。暮れの大一番「全日本2歳優駿」に向けて、勝ち馬には優先出走権が与えられるステップレースでもある。
 「当初はこのあとハイセイコー記念使って年明けにニューイヤーCというプランだったが川崎所属として、そうはいかなくなってしまったようだね」と長谷川蓮太郎がプラン変更を口にした。

<長谷川蓮太郎調教師>
「この馬の母親もうちにいた馬でね、乗っている時はいいんだが、馬房ではボコボコ蹴るようなところがあってね。周りにゴムを張っていたんだ。新馬戦勝ったりもしたがヒザに熱を持つようになって繁殖に出して、コジローは三番仔になるね。だから、その縁で生まれた頃から見ている。小さい頃からちょっときかないところがあったね。親を蹴って、怒られたりして。やや細身ではあったが、動きが良かったので馬主さんも楽しみにしていたんだが、昨年の秋に亡くなってしまってね。楽しみにしていたから、残念だったろうに。今ではこのコジロー、レースでも普段でもすっかり気分屋(笑)」と長谷川蓮太郎調教師にとっても縁の深い一頭なのだ。
 「こんな追い込み馬も珍しいよね。自分が騎手時代にトキワという馬がいて、みんなが4コーナー回ってもこっちはまだ3コーナー。馬が行く気になるまでギリギリまで待って拍車を入れてスパートを掛けるから、上がってくるとチョーカーが血だらけなんてのがいた。自分は追い込んでくる馬の方が気分がいいんです、と山田くんに言われてね。それならコジローにピッタリだと彼に任せた。新馬戦はスタート出遅れて、それでも4コーナー回ると馬の間を縫って伸びてきた。2戦目は内に行こうか外に行こうか迷っているうちに開いたところを突いてきた。こういう馬だから、とにかくスタートに気をつけて、できるだけ損のないようこの馬の決め手を生かしてくれと指示して乗ってもらっている。それでも以前はスタートでボケーッとしていたが、バンと出て行けるようになってきている。欲を言えば無理せずに後方3,4番手に付けてレースができるようになるといいね。そうすれば、もう少しジョッキーにも楽をさせてあげられるんだがね。馬体ももう一回りふっくらして欲しい。ローテーションを変更して次走にと決めた全日本2歳優駿だが、中央から強い馬がやって来るのはわかってる。テンのペースも違うだろう。前がやり合ってくれるような展開になれば、向正面で前と50メートル離れていたって差しきれるだけの斬れ脚はあると思うんだがね」
 希代の個性派トキノコジローが中央馬を筆頭にした強豪相手にどこまで食い込めるのか。時計を止める末脚にしびれたファンも多いことだろう。
◆ トキノコジロー ◆
 父ホリスキー 
 母ミスコンバット
牡2歳 鹿毛
<2001年3月24日生>
調教師●長谷川蓮太郎
馬主●田中久續
騎手●山田信大
厩務員●坂下光弘
生産者●谷藤敬三


<山田信大 騎手>
  おかげさまで南関東に来て初めての重賞制覇になりました。 新馬戦の時から乗っていますが、スタートが上手じゃないというか、砂を被ると前に進まなくなってしまうんです。2戦目もスタート良くなかったし、今回も、もう少し前でレースがしたかったんですが、案の上、前に進まなくて。だからといって馬群に入っても怯む訳じゃありません。ただ、砂を被るのが嫌なんだと。一戦ごとに力を付けているのがわかりますから、この課題が平気になると相当なもんです。直線に入るとエンジンが掛かってものすごい脚を使いますが、今日もゴールしてからまだ勝ったかどうか半信半疑。この先も展開との闘いになりそうですね。
<坂下光弘 厩務員> 
 「新馬戦の時、道中スムーズじゃないのに勝って、上がってきた山田騎手がいきなりこんな事言うから驚いたんだよ。『今日は自分のミスです。この馬、中央に早く挑戦させましょう』って。相当走るんだな、この馬って思ったよ。能力も一回受けるの見合わせたし、新馬戦も一度見送って、常に自信ある状態で使ってきた。でも、さすがに今回はあの位置で絶体絶命かと思った」。  坂下厩務員はこの道20年、重賞はイーアシオーン、トキノアジュディに続く3つ目という腕達者だ。
 「普段はおとなしいというか、ナマズるいから、一つのことを覚えさせるのに手が掛かる。洗い場に入れるまでに2週間。馬運車乗せるのに毎日そこまで歩かせて、車の回りで運動させて、また二週間。馬運車も一頭でしか乗せない。今後の遠征では馬運車のことや、他場のパドックなど初めてのことには動こうとしないから経験を積ませていくしかないね」
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