東京ダービー制覇アンパサンド

第1章 アンパサンドが頂点に輝いた夜
第2章 素顔のアンパサンド
第3章 アンパサンドの秘密アイテム
第4章 次なる敵に向けて

***** 第1章 アンパサンドが頂点に輝いた夜 2007.6.6 *****
もうすぐ出発
大井競馬場到着
待機馬房で
パドック
激しい攻防
ダービーゴール!
ウイニングラン
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戸崎騎手の長女・麻帆ちゃんも馬上に
表彰式

トップサバトン、アンパサンド、フリオーソ。クラシック第一冠の羽田盃で死闘を演じた三強ムード漂っていた第53回東京ダービー(6月6日大井競馬場)。
南関3歳の選ばれし精鋭たちが挑む頂点レースにはフルゲート16頭が出走
一生に一度のこの舞台で主役に躍り出るのはどの馬なのか。絶対的人気を集める羽田盃上位3頭に割ってはいる刺客は現れるのかが注目された。

大井競馬場。天候晴れ。気温25度。
20時10分発走の東京ダービーに向けて川崎から出走6頭が川崎競馬小向厩舎を出発したのは17時40分。
アンパサンドはマンハッタンバー、ロイヤルボスの共に18時20分大井競馬場に到着した。

「羽田盃の翌日には短期放牧に出し19日に帰厩。緑の多い牧場で精神的に緩めたあとはまだ成長過程ということを考えて一週間前にビシッとやって直前は控え目がいつものパターン。今回は余裕残しでカラダつくったぶん本追い切りで直線肩ムチ入れて反応を確認したが動きは納得いくもの。完璧だった前走よりさらによくなってるね。こんなに急に成長するのかと驚くくらい精神的にも強化している。勝てます!」と池田孝調教師。
6月2日午前5時に行われた最終追い切りでは佐藤博紀騎手が騎乗し単走で64.1-49.7-37.6-12.5。 強気の構えも頷ける。

待機馬房では決戦を前にしてもおとなしく余裕の表情。装鞍所からパドックへと進むにつれだんだんと気合いを表に出す。
一番人気はフリオーソ、二番人気は道営時代からの宿敵トップサバトン。
アンパサンドは三番人気に推された。

大井コース2000メートルは4コーナーポケットからのスタート。
宣言通りにマンハッタンバーがハイペースで飛ばす展開になったが、一方では羽田盃馬トップサバトンは痛恨の出遅れ。 馬群が1コーナーを回っている時トップサバトンはまだスタンド前を通過しているところ。
2番手にはロイヤルボスとショウナンセラビィが並んで追走。アンパサンドは好位外々を位置取る。フリオーソがその後ろからという展開。


直線に入るとロイヤルボスが先頭に躍り出た。迫るアンパサンドとフリオーソ。
まずはロイヤルボスを、そしてフリオーソを競り落としゴール前の攻防を捌いたのは戸崎騎手のアンパサンドだった。
内田博騎手フリオーソはクビ差で入線。
3着に続いたのは的場文騎手のロイヤルボス。
タイムは2:05:0。東京ダービーが距離変更されて以来のレースレコードが飛び出した。

「前走乗ってみて、あまり早く追い出すと終い甘くなる面があるなと感じていたのでギリギリまでガマンしようと思ってました。トップサバトン、フリオーソを見ながらのレースになるだろうと。スタートしたら予想外の展開。距離2000ということを考えてまず折り合いに専念。内田さんの馬が横にいるのは見えていたし、3・4コーナーで内に包まれているのが判ったんで、だったら向こうが動く前に先に動いてしまえと切り替えました。直線の手応えからも十分させるなと。馬がものすごい根性を出してくれましたね。前走より気持ちが前向きになっていて。素直で乗りやすい馬ですからJDDでも気負うことなく馬を信じて乗りたいと思います」
と見事ダービージョッキーに輝いた戸崎圭太騎手。すでに「次」を見据えている。

ウイニングランでは何度も大きく手を挙げ勝利の喜びをあらわす戸崎騎手。
「夢だった」という愛娘の麻帆ちゃん(2歳10ヶ月)を馬上に乗せて優勝口取り写真におさまった。


第11競走 第53回 東京ダービー(S1)  ダート2000m
賞金 1着 4500万円 2着 1575万円 3着 900万円 4着 450万 5着 225万円



馬名 所属 負担
重量
騎手
(所属)
調教師 馬体重 タイム 着差 上り
3F

1 5 9 アンパサンド 川崎 56.0 戸崎圭(大井)
池田孝 470 2:05:0   37.3 3
2 7 14 フリオーソ 船橋 56.0 内田博(大井)
川島正 503 2:05:0 クビ 37.1 1
3 2 3 ロイヤルボス 川崎 56.0 的場文(大井)
長谷茂 500 2:05:1 3/4 37.6 4
4 6 11 アートルマン 船橋 56.0 石崎隆(船橋)
出川克 536 2:05:3 3/4 37.4 8
5 6 12 ウエスタンローレル 船橋 56.0 山田信(船橋)
山浦武 500 2:05:4 3/4 36.9 9
6 3 6 レッドドラゴン 大井 56.0 坂井英(大井)
堀千亜 471 2:06:0 38.1 5
7 2 4 ハナビバーチェ 大井 56.0 真島大(大井)
鷹見浩 468 2:06:2 38.1 13
8 7 13 トップサバトン 船橋 56.0 御神訓(大井)
柿本男 463 2:06:3 クビ 37.8 2
9 8 16 チェレブラーレ 大井 56.0 張田京(船橋)
太田進 472 2:06:4 1/2 38.8 15
10 4 7 イチモンジ 川崎 56.0 水野貴(浦和)
佐々仁 459 2:06:9 38.8 14
11 5 10 パルパディア 川崎 56.0 町田直(川崎)
秋山重 447 2:07:1 39.0 10
12 3 5 グローリーソング 船橋 56.0 石崎駿(船橋)
坂本昇 474 2:07:1 アタマ 39.4 12
13 1 1 ブライダルヘイロー 大井 56.0 早見多(大井)
荒井隆 498 2:07:2 クビ 39.1 11
14 4 8 ショウサンセラヴィ 大井 56.0 有年淳(大井)
矢作和 516 2:09:9 大差 42.2 16
15 1 2 マンハッタンバー 川崎 56.0 酒井忍(川崎)
池田孝 513 2:10:5 43.2 6
16 8 15 エスプリベン 川崎 56.0 今野忠(川崎)
久保秀 500 2:10:7 3/4 42.2 7
上り 4F 51.0 3F 37.7
ハロンタイム
12.3- 10.9- 12.2- 12.8- 12.8- 13.0- 13.3- 13.4- 12.0- 12.3
コーナー通過順
1角 2,3,8,16,5,9,14,6,1,(4,15),11,7,10,12,13
2角 2,3,8,16,(5,9),14,6,1,4,15,11,7,10,12,13
3角 2,3,16,(5,8,9),14,11,6,(1,10,7,4),(12,15),13
4角 3,2,9,(16,5,14,6),(11,8),(10,7,4),1,(13,12),15


***** 第2章 素顔のアンパサンド *****


 プロフィール
生年月日 2004年3月5日
性・毛色  黒鹿毛
フィガロ
母 (母の父) アビエント (ウォーニング)
馬主 伊達秀和
調教師 池田 孝
騎手 戸崎圭太
厩務員 遠野吉春
生産者 サンシャイン牧場
ニックネーム アンパ
好物 バナナ リンゴ 
クセ 寂しがりやゆえに人が来るとちょっかいを出す
東京ダービーから一夜明けるとたくさんの花が池田厩舎には届いた。お祝いの電話がひっきりなしに鳴っている。

そんな中でもお祝いムードに浮かれることなく間近に迫った地元開催に向けて調教や馬の手入れを黙々と進めるスタッフたち。
ダービー制覇の立役者となった遠野吉春厩務員もそのひとり。まずは馬上からVサイン。いつもクールな仕事人だが、さすがに優勝翌日は特別だ。
「まだ馬自身が気を張っている状態。激戦の疲れが出るのは何日か過ぎてからだろうね。喜びの反面、疲れが心配だよね」。
遠野厩務員の接し方をみると馬を自分から動かそうとせず、馬が自分から動くタイミングをじっと待っている。意思の疎通を図を大事にする馬の気持ち優先主義の人。

第53代東京ダービー馬に輝いたアンパサンドは一夜明けた朝も何もなかったかのように馬房でどっしり構えている。
ひとしきり歩様のチェックをしたあと、9時半頃になって洗い場に出され全身を洗ってもらう。とっても気持ちよさそうに目をつむる。

「戸崎騎手がこの馬の力を引き出す騎乗をしてくれた。アンパサンド自身も自分が勝ったことわかってるんだよ」と池田調教師。
なるほどすでに王者たる風格が!
北海道でデビューしたアンパサンドが池田厩舎所属として南関東に活躍の舞台を移すことが具化したのは北海道2歳優駿(2着)直後のこと。

「サンシャイン牧場とは場長の倉見さんが元道営でジョッキーやっていたという縁があって(池田師は元道営の厩務員)北海道で走っている馬もチェックしている。アンパサンドのレースを見たのは旭川のレースくらいから。幼い頃にも一度だけ馬体を見ていて、その時は正直いって2歳戦で走る早熟タイプだと思った。フィガロをそれまで2頭やっていたがいずれも早熟で弱いところがあったからそのイメージを重ねてた。そんなにず抜けてるという感覚はなく細身で小振りだけど均整が取れているなという印象くらいだったね。気性が悪いのはわかっていたからどれくらい成長するのか半信半疑だった。ゲート裏までパッシュファイヤー付けたりパドックで2人引きしてたらひっくり返っちゃうとかしていたのを知っていたからね」というのが出会い。

「うちに来たのは北海道のレースが終わってすぐ。全身から来る歩様の悪さ、最初は蹄幹部、つなぎからツメにかけての不具合が気になって、キッチリ馬作ったら壊れちゃうなと不安があった。道営の米川昇先生が元々がそういう歩様が悪く、苦しいところのある馬で追い切りのたびに歩様が乱れる馬であることなど色んなアドバイスをくれた。
体質強化のほか一番変わったのは馬の気持ちかな。馬自身に強い気持ちが出てきたことによって筋肉のつき方も変わってきた。馬が俺は負けないという気持ちになっている。結果は負けててもそう差のないレースをしてきているよね。京浜盃の時だってかなり無理な競馬しているのに最後まで食らいついていった。羽田盃の時は強い馬相手にヒケをつらないレースをした。その自信がダービーにつながったのではないか。
アンパサンドという馬名は「&」の正式名称が由来。人と人が繋がって出た結果がダービー。自分勝手なことしてても勝てなかったと思う。米川先生が大事に育ててくれて、うちに来てからも装蹄師さん、獣医さん、休養先で見てくれるスタッフ、調教をつけてくれてる佐藤博紀騎手、担当厩務員の遠野。全部がうまく重なってみんなが気持ちよくこの馬のために力を注いでくれて、さらにオーナーサイドとの話し合いがキチンとできることも大きい。
もしダービー負けるようなら二、三ヶ月休養ってことも考えていた。そん時も普通ならオーナーブリーダーなんだもの自分のところへ持っていこうとなる話が、ボクが知っているところがあると言えば、ならばそれでいいという風にわかってくれる。
そう考えるとこの名前はダービー勝つためにつけられたのかもしれない。道営と川崎のいいジョイントがなければダービーは勝てなかった。改めてそう思う」。


年月日 競馬場 R レース名 距離 天候・馬場


着順 タイム 上3F 体重 騎手(所属) 負担
重量
調教師 1着または
 2着馬 
2006/06/07 札幌 5 フレッシュチャレンジ2歳  1000   5 5 5 7/ 9 1:04:8 38.6 476 齊藤正(北海道) 53.0 米川昇 サクラネクスト
2006/06/14 札幌 5 ルーキーチャレンジ2歳  1700   6 6 8 3/ 11 1:55:9 44.6 478 齊藤正(北海道) 53.0 米川昇 ブレイブスピリット
2006/06/28 札幌 2 2歳 未勝利  1700 稍重   4 4 4 1/ 9 1:54:1 40.3 478 齊藤正(北海道) 53.0 米川昇 フィールアブレス
2006/07/12 旭川 4 アタックチャレンジ2歳  1500 稍重   4 4 3 1/ 8 1:39:2 40.9 472 齊藤正(北海道) 53.0 米川昇 ブラックマンバ
2006/08/12 J新潟 9 ダリア賞 2歳オープン 芝1400 稍重   1 1 7 9/ 9 1:23:5 35.4 474 齊藤正(北海道) 54.0 米川昇 マイネルレーニア
2006/08/29 旭川 11 イノセントカップ〔H3〕(ファ  1500 稍重 8 10 9 1/ 11 1:36:9 40.0 470 齊藤正(北海道) 54.0 米川昇 フジエスギャラント
2006/09/26 旭川 11 サンライズカップ〔H3〕(クロ  1600 4 4 2 3/ 11 1:44:2 40.2 470 齊藤正(北海道) 54.0 米川昇 ヒデサンジュニア
2006/10/26 札幌 10 北海道2歳優駿 (キングGIII  1700   8 13 9 2/ 13 1:49:6 40.4 468 齊藤正(北海道) 55.0 米川昇 トップサバトン
2006/12/13 川崎 10 全日本2歳優駿GI2歳オ JR  1600 稍重   3 3 9 3/ 14 1:42:2 40.3 468 今野忠(川崎) 55.0 池田孝 フリオーソ
2007/01/17 浦和 10 ニューイヤーカップ3歳 オープ  1600   1 1 1 3/ 11 1:43:4 38.5 463 今野忠(川崎) 54.0 池田孝 レッドドラゴン
2007/03/28 大井 10 京浜盃3歳 オープン重賞  1700 8 13 2 2/ 14 1:46:8 38.0 466 内田博(大井) 55.0 池田孝 トップサバトン
2007/05/09 大井 10 羽田盃(S1)3歳 オープン重  1800 1 1 4 2/ 14 1:51:1 37.0 469 戸崎圭(大井) 56.0 池田孝 トップサバトン
2007/06/06 大井 11 東京ダービー(S1)3歳 オー  2000 5 9 3 1/ 16 2:05:0 37.3 470 戸崎圭(大井) 56.0 池田孝 フリオーソ


***** 第3章 アンパサンドの秘密アイテム *****
昨年の川崎トップトレーナーである池田孝調教師。
厩務員時代には稀代のクセ馬ドルフィンボーイを東京大賞典馬に輝かさせた腕利きであり、人一倍の研究心で「効果が期待できる」となれば様々なアイテムを取り入れる実践主義。その馬づくりは馬をスポーツ選手とする考えが基本になっている。

たとえば池田厩舎ではパドック以外でメンコを着けることはない。
「物音で不安になっているということは人を信頼していないってこと。メンコで隠してしまうことが良いとは思わない。優先順位をどこにもっていくかってこと。あの悪いドルフィンボーイにもメンコはしてなかった。信頼関係を築いてあげれば良い結果につながるというのが俺の持論」。
暑さ対策についてもクーラーを導入せずにヒサシをつけて日差しを防ぐのが池田流。
「クーラー使って結果を出してる厩舎はたくさんあるので俺なりの考えだけど、スポーツ選手にクーラーにはよくないのではないかと控えている」と一過言。

ここでは「アンパサンドの秘密」としてをダービー馬に導いた池田流必勝アイテムの一部を紹介しよう。
■接着蹄鉄 ■短期放牧
070607anpasand3.jpgアンパサンドの両前の蹄鉄はエクイロックスという接着剤でつけられている。 今年の日本ダービー馬ウオッカやディープインパクトと同様の方法で、「蹄をキチッとつくってあげたくて。蹄の成長に負担が少ないはず」という池田孝調教師の考えによるもの。
エクイロックスを取り入れたのはアンパサンドは蹄の成長がよくないから。本来なら自然な形で伸ばしてあげたいがレースがあるからそうはいかない。釘打てばまた痛むからそれで打たないためには接着装蹄を取り入れた。使ったのは羽田盃から。釘を打たないで済むぶん負担が少ない。蹄を切って、少しだけ接着剤つけた蹄鉄つけて、外側から接着剤つける。乾くまで30分脚を持ち上げたままはたいへんだけどね。競馬を使いながらとしては今思いつく最善の方法。理想は何にもしないで蹄が整うので放牧できれば良いんだけどね」。
そこに登場するのが池田厩舎の装蹄を担当する上野装蹄師。

「上野さんは柔軟な頭でいろんな良策を提案してくれる。元々は栗東のJRA職員の装蹄師だった人で、今は独立して全国を回っている。池田厩舎を見てもらうようになったのは3、4年前からというつきあいだが理論派で勉強熱心。それでいて硬いばかりじゃなく馬をわかってるから頼りにしている」。


■ジンクス
勝負の世界に生きているせいか競馬関係者には「ゲン担ぎ」や「ジンクス」にこだわる人が多い。
「俺の場合は行動がゲン担ぎ。スケジュールを決めていて、たぶん競馬の前日まで厩舎にはいないと思う。その方が馬の成績がいいみたい(笑)。
ダービーの前も北海道いっていて前日まで馬見てたら、サンシャイン牧場でスタッフに叱られた。なにやってんですか〜って。俺がいたってやることないからって答えたんだけど。今回はセリがあるから同じように前日まで北海道(笑)。JDDまでほとんど厩舎にいない。スタッフがきちんとやってくれるから心配していない」。
ダービーの時と行動をいっしょにすることでゲンを担ぐという池田師。ジャパンダートダービー前日は馬産地某所でダービー前日と同じ蕎麦を食べる予定だとか。

わかるだろうか右肩のくぼみを。岩陥(いわおち)といわれる馬特徴のひとつ。
アンパサンドの場合は岩陥の場所が悪かった。
「馬には肩にショックアブソーバみたいな袋があってクッション役をするんだが、そこに岩陥があってクッションがつぶれてるもんだから衝撃をまともに受けてしまう。それをかばうために全身あちこちに負担がくる。反動が大きい。そこが他の馬と違う苦しいところ。じゃあそれを治せるかといったら治しようがない。上手につきあっていくしかない。他を鍛えてカバーする。筋肉をつけるしかない。骨を強くするサプリを使ったり調教でも筋肉をつけることに重点を置く。
競馬使うたびに短期放牧に出すのもカラダの弱さをカバーするためもある。短い期間にメンテナンスできるように。それに元が気の悪い馬で今だに神経質な面があるから、精神的に追い込まれた状態で、厩舎にいればプレッシャーをかけたままになるから鍛えようにも筋肉がついてこない。癒される場所ではない。厩舎は戦場だからね。だから帰ってくるたびに、今回もひと回り大きくなって戻ってきた」。

そこで一役買っているのがノースショアリハビリランチの目黒憲史獣医の存在。レースの翌日には移動して一週間ほどリフレッシュ。その後帰厩して次なる目標に向けて乗り込むのがパターンとなっている。
「目黒さんとは二年半くらいのつきあいだが今では欠かせない人。馬を見させたら的確。馬のどこが悪いのかしつこく発見する完璧主義者。プラス場長ともう一人のスタッフの二名だけの小さな施設なんだが馬自身を理解してくれてキチンとした扱いをしてくれる体勢が整っている。思い通りに仕上げてくれる」と信頼を寄せる。


■お肌もすべすべヒアルロン酸
「人がいいという物はまず取り入れてみる(笑)。アンパサンドは食わせるのには手が掛からないが、骨を強くするためなどサプリメントで補っている。飼料面で大事なのは食べさせる時間だと思う。たとえばバナナ。これをカイバの時間にあげても意味ない。スポーツ選手が全力を出し切るには糖を運動中にとるのが理想だがそうはいかないから運動直後。疲労回復にもなるし筋肉もつける効果も出る。運動直後にバナナと共に成長を促すためにサプリメントを与える。高純度のヒアルロン酸を混ぜてね。そのほかにはアミノ酸も摂取。これも馬用ではなく人間用の高純度の物」。

***** 第4章 次なる敵に向けて *****
南関東の頂点である東京ダービー馬として今度は全国から新たなる敵を迎え撃つ立場となったアンパサンド。駒を進めるのはもちろんジャパンダートダービー(7月11日・大井)である。

ダービーの激戦を終え、翌々日には例のごとく千葉にあるノースショアリハビリランチに移動して短期放牧。
10日後の18日に帰厩するまでには心身の疲れを癒しリフレッシュ。


「レースからすぐ牧場へ出すのは羽田盃時と同じだが、今回もうまい具合にリフレッシュできた。精神的な緊張感も抜け、いい感じにふっくらした。前回同様、いや欲目もあるのかさらに良くなって風格が出てきたようにさえ感じるね」と池田調教師。

リフレッシュ放牧から戻り、束の間ののんびりムード。
調教を追え、手入れをしてもらってゴロンとひと休み。
「暑さもあったのかな。こんな風に寝るのは珍しい」と遠野厩務員。
よほどリラックスしているのか、はたまた暑さの影響か。


少し早めにビッシリ本追い切りかけて、直前にはサーッと軽めの調整というダービーと同じスケジュールで本番に向かう。15‐15を切る調教は28日にまず一本。3日に川崎本場で右回りで追ったのが実質本追い切りといえるね。7日には馬なりで最終調整。動き、仕上がりに点数をつけるなら200点!」という自信の仕上げ。
実質4日に一本のわりでハードに攻め込まれたことになる。

さあ、東京ダービー馬として追われる立場になったアンパサンド。
中央からはユニコーンS馬ロングプライドが参戦し、ダービーウィークに実施された6つのダービーのうち北海優駿馬ブルータブー、東海ダービー馬マルヨフェニックス、兵庫ダービー馬ユキノアラシそして東京ダービー馬アンパサンドの4頭が揃った。
南関東からもダービーA着のフリオーソが、雪辱を期すトップサバトンもまた再発走試験をクリアし好敵手として立ちはだかる。


「アンパサンド、フリオーソ、トップサバトンの3頭は展開ひとつで着順が入れ替わってもおかくないほど力量は互角。さらにそこに全国から強い馬がきますがアンパサンドを信じて乗るだけです」と戸崎騎手。
「アンパサンドといっしょに成長していきたい。古馬になってもコンビを組んでいきたい相性の良い馬です」と付け加えた。

大胆かつ理論的な池田厩舎の馬づくり。厩舎カラーの赤一色に馬装を揃えてジャパンダートダービーの舞台に挑む。