川崎競馬厩舎訪問 〜小向トレセンにようこそ〜 2016/2 福島秀夫厩舎


◇この記事は川崎競馬馬主協会ニュース 2016年2月号に掲載されたものです◇



開業して9年目となる福島秀夫厩舎。父の幸三郎さんといえば伝説の地方最強牝馬『ロジータ』の育ての親。 ロジータは牝馬ながらに南関東三冠馬となり、3歳でジャパンカップにも挑戦。4歳春に引退するまでの短い競走生活の間に川崎記念や東京大賞典など15戦10勝で駆け抜けた。
担当厩務員を叔父の五雄さんが務め、福島家にとってロジータは“宝”だという。次男である秀夫調教師にとっても人生の転機を与えてくれた馬だった。

小向の厩舎育ちとあって、「いつか自分も騎手になりたい」と夢見ていた。
ところが中学生になると身長は170センチを越え、体重も60キロに成長。 騎手をあきらめること=馬の世界をあきらめることだと高校に進学し、専門学校を経て旅行会社に就職した。
「ロジータが東京ダービーを勝った頃はツアーコンダクターとしてオーストラリアのシドニーに赴任中でした。 三冠達成がかかった東京王冠賞(当時のレース体系)だけは何としても見たいと一時帰国して大井競馬場に見にいったんです。 鳥肌が立つような感動で、あの瞬間に馬の世界に引き戻されました」と25歳で退職し、父の元で厩務員になった。

転職のきっかけになったロジータはもちろん、その兄妹や子供も福島幸三郎厩舎に入厩する中で、「ロジータのような馬を自分でも仕上げてみたい」という想いが強くなり、 目指すは調教師。42歳の時に晴れて調教師試験に合格した。
「開業したのがちょうど日本経済が低迷した時期で、馬主さんの世代交代も重なって厳しいスタートでした。馬主さんからお預かりした大切な馬たちを出走できてナンボの世界ですからとにかく健康管理が一番。 父の元で厩務員をしていたときの経験をベースにして、午後は運動よりマッサージなどのケアを中心にするなど新しいスタイルも取り入れています」と、洗い場ではピーエムイレブンが岩田厩務員にマッサージを施されている真っ最中。
「ピーエムイレブンはもう9歳で、1月27日のレースが104回目の競馬でした。2歳の春に売れ残っていた馬なんですが、きれいな顔がまず目をひいて、馬格もしっかりしていることから馬主さんに買ってもらった馬。 自分で見つけて、自分で手がけた馬なので思い入れは強いですね。わずかに残った現役のトウカイテイオー産駒として応援してくれているファンも多いんですよ。かれこれ7年の付き合い。9歳になる今までずっと“無事是名馬”で走りつづけてくれています」。

父や叔父から受け継いだ競馬への熱意。その根幹になっているのはやはりロジータの存在だという。
「ケガというケガもない丈夫な馬で、しかも走るたびにどんどん強くなっていく。素晴らしい馬でした。いつかロジータのような強い馬を育てたいですね」。 日々の地道なケアの先に夢は広がる。

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